超小型「北海道衛星」の製作
超小型衛星ワーキンググループ: 北海道工業大学  佐鳥 新 
従来の宇宙開発では人工衛星の開発には膨大な投資(約10年の開発期間と数百億円の経費)が必要でしたが、我々が目指す『北海道衛星』は、衛星のサイズを50キロ程度に抑え搭載する機能を目的に応じて特化することにより、1億円程度の開発費で1?2年以内での打ち上げを実現することができます。超小型衛星やその部品の多くは道内で製造するとが可能です。北海道衛星を農業・漁業・医療分野等へ応用した新しい宇宙ビジネスを創出することが超小型衛星ワーキンググループの使命といえます。

マイクロ波エンジン 作動時のマイクロ波エンジン
マイクロ波エンジン 作動時のマイクロ波エンジン
(マイクロ波エンジンは小型衛星商用化のためのキーテクノロジーです)


超小型衛星の地上モデル 超小型衛星の地上モデル



タイトル:超小型衛星の開発について (2000年2月7日 於京王プラザ札幌 )

世界に於けるマイクロ/ナノサット研究の趨勢
超小型衛星開発の位置付けと意味(4つ)から説明する。

小型衛星という言葉の厳密な定義はないが、一般的には1トン級の大型衛星より小さいものを指す。つまり300キロないし数百キロの人工衛星を小型衛星と呼ぶようである。それに対し、今回のテーマである超小型衛星とはそれより1桁ないし2桁小さな人工衛星を言う。最近では重量が50キロ程度までの衛星をマイクロサットと呼び、5キロ程度までのものをナノサットと呼ぶ傾向にある。1キロ以下のものはピコサットと言う。要するにマイクロ、ナノ、ピコという接頭語は徐々に小さくなっているという意味である。

通常の気象衛星とか科学衛星は国家プロジェクトとして大手衛星メーカーが開発に携わっているが、この超小型衛星は主に大学とかベンチャー企業が研究開発の主体となっているのが従来の流れとの違いといえる。まだ新しい技術なので産業には結びついてはおらず、現時点での主たる目的は教育にある。大型衛星と違ってシステムが簡単であるため、(メーカーのエンジニアやそれなりの経験のある教官の指導が前提だが)大学院生でも開発現場に直接参加できる、いわば宇宙開発のエンジニア養成の実地教育が出来る場を提供している。

超小型衛星が潜在的に持っている意味の第2点目には宇宙実績の積み重ねる場の提供ということがあげられる。失敗を恐れていつまでもローテクにしがみついているのではなく、最新の民生品などを大胆に使ってみて、その中から宇宙環境でも使えるものを探しだし、その実績を蓄積することが重要である。しかもそれは数年に1回とかいうペースではなく、頻繁にしかも安く実現できなければ現実味がない。超小型衛星とはそれを実現するキー・テクノロジーとなる。即ち、超小型衛星は、先進的な機器、部品、方式を迅速かつ低コストに試験できるものであり、しかも国、大手開発機関、メーカーなど誰でも手軽に利用可能なテストベンチを提供する。小さな失敗を許容し、宇宙で多くの経験を積めるような新しいスタイルを作ろうという意味である。これは宇宙開発の体質改善でもあり、このようなスタイルが普及することにより大型プロジェクトの成功率を高めるだけではなく、そこで蓄積された技術を使った新たなミッションを生み出すことへも貢献できると思う。

第3番目の意味として、宇宙開発の啓蒙が期待できる。主に大学を中心とした超小型衛星の開発は庶民と先端技術の間にある意識のギャップを埋めるものであり、多くの人々に対して開かれた宇宙開発、一部の人だけが携わるのではなく誰でも参加できる宇宙開発という啓蒙効果も期待できる。

第4番目は超小型衛星のベンチャー性という観点である。現時点ではまだ産業と結びついているとは言いがたいが、今後の可能性として言えば、宇宙でなければできない技術(合金や半導体の開発など)をやるというよりは、むしろその気になれは地上でもできるが宇宙環境を利用した方がベターな分野(例えばより早いとか)を探すという方向にビジネスチャンスがあると考えられる。生物系の研究者から聞いた話しでは、ドーピング検査の評価には無重力環境を利用したほうが早く結果が得られるという。製薬会社などが新しい薬の開発に利用することができるかもしれない。

以上の超小型衛星の研究の流れは従来の国家主体のプロジェクトに挑戦するべきものではなく、むしろ研究全体の裾野を大きく広げ、このボトムアップ的研究開発方式が従来型ではできなかった部分を補うという、いわば相補的な役割分担があると捉えるべきものである。

大学主体の衛星開発実験(実証)
大学を中心とする新しい衛星開発のスタイルを説明する。大学の学生実験だから少々いい加減であってもいいと妥協するのではなく、大学の研究スタイルの利点を生かすことにより、よりスピーディーな衛星開発のスタイルを創りだすという意味である。従来のようにシステム検討を何ヶ月も繰り返しやった後で試作段階に移るのではなく、大学の研究室では一般的なことだが、ミーティングをやってある程度システムが固まったら、翌週には試作し実現性(フィージビリティ)を確認してみるというスタイルである。もしうまくいったら次の段階として環境試験をやり、フライト品相当の部品をひとつずつ作り上げていくという方式である。つまり、設計とフィージビリティ確認の同時進行が特徴のひとつといえる。

イリジウムなど最近の衛星でも行なわれているようだが、民生品を大胆に利用してみるのも特徴と言える。例えばアメリカのウィーバー大学では自前でコバルト60の放射線源を持っており、民生のCPUなどの放射線試験を行って使える部品を探している。但し、民生品の積極的利用という観点には条件がある。最近の民生品の方が従来の宇宙部品より性能が良いのはいうまでもないが、民生品の全てが宇宙環境、特に宇宙の放射線環境で使える訳ではなく、性能を追及する代償として誤作動する頻度の増加や寿命を犠牲にしている面は確かにある。ミッション期間が(数年のオーダーではなく)数週間とか数ヶ月というように短ければ最新の高性能な部品が利用可能であるという意味である。

信頼性を維持するための文書化(ドキュメント化)は必要不可欠な範囲に限定して行い、文書作成に要する膨大な労力を減らすのも特徴といえる。大学の研究室の中の雰囲気があり、常に衛星全体の開発現場が見渡せるチーム構成であり、現場に合わせたマイルストーンの設置を行っている。そこでは大学での研究特有の手作り的な工夫を衛星設計に盛り込まれている。

打ち上げに当たっては「間に合わないものは乗せない」程度の柔軟性があり、この柔軟性は信頼性を重視するあまり腰の退けた技術を搭載するのではなく、研究者のチャレンジ精神とか研究者魂とでも言うものを大いに鼓舞するものといえる。

各国の取り組みの一例
アメリカではUniversity Nanosatellite Programなどがあり、NASAやAir Forceがスポンサーとなって大学で小型衛星の開発を進めている。アメリカの宣伝をする訳ではないが、国家機関が大学の研究能力を有効に活用している点が特徴的であり、その結果として新しい衛星バスやミッション機器などが大学から効果的に生みだされている。

イギリスのサリー大学では、大学が企業化して小型衛星バスを販売している。その利益は新しい小型衛星の開発と打ち上げ費として使われていると聞いている。

アジア圏では、サリー大学の協力のもとに韓国や中国が小型衛星の開発に着手し始めている。

新聞記事(2枚)
日米科学技術・宇宙応用プログラム(JUSTSAPと言う)というものがあり、毎年11月頃にハワイで会議を開催している。その中にある小型衛星ワーキンググループの活動として、日本とアメリカの大学生が国際協力で超小型衛星を製作し、打ち上げるという試みが昨年あったので紹介する。これは缶ビールとほぼ同じ大きさのカンサットと呼ばれる手作りの衛星で、日本では東大の中須賀研究室と東工大の松永研究室の学生が参加し、アメリカ側はスタンフォード大とアリゾナ州立大が参加した。衛星の設計、部品調達、製作、試験は全て学生が行った。東大の方の話しでは長距離見通せる場所が都内にはないので相模湖へ行って湖の対岸まで電波を飛ばして通信実験をやり、打ち上げ時の衝撃試験も自前で行ったという。学生が自主的に非常に頑張り、教育という意味でも効果的だったと聞いている。

打ち上げはアメリカのネバダ州にあるブラックロック砂漠で、アマチュアロケット団体の協力を得て行った(当初の計画では軌道に上げる予定だったものが変更になった)。長さ3メートルの固体ロケットのフェアリングの中に3基の衛星を搭載し、高度3?4キロ上空まで運ばれた後に分離し、ロケットの筒の中に折り畳んでいたパラシュートを展開し約15分間かけて砂漠に着地した。トラッキングには手製の八木アンテナを衛星方向に向けてテレメトリーデータを取得したという。

MDS研究ミッションによるマイクロサットの開発(学生とモックアップの写真)
以上、内外のナノサットを紹介したように小型衛星の分野は欧米圏が最先端を走っているが、この領域はまだ未開領域であり、2003年あたりまでに打ち上げることができれば日本でも十分に対抗しうる領域といえる。我々は98年より宇宙開発事業団との共同研究として次世代型超小型衛星の研究開発を本格的に始めた。この研究の発端は道工大での秋葉先生とのゼミに始まったことを付加えたい。我々の研究チームは、道工大と東大の2大学と宇宙開発事業団および神奈川の衛星メーカーである(株)アストロリサーチによる産学官共同チームにより構成されている。超小型衛星は、大型衛星の機能を持ったままで単純に規模を小さくれば良いわけではなく、また形状だけが小さければ良いわけでもない。我々が超小型衛星を開発するために選んだ基本方針とは「小さくとも高度な運用に堪えうる必要最小限の機能を厳選して搭載すること」である。この方針は将来的には開発費の大幅な削減と開発期間の短縮化につながると信じる。我々の目標は、この超小型衛星という実験環境を提供することにより、一回の打ち上げ当たりの搭載数を増やすと同時に利用者への間口の拡大とリスクの分散化を狙い、宇宙利用を押し広げていくことにある。

マイクロサットの図面(2枚)
現在開発している超小型衛星は、直径約20センチ、長さ約30センチの円筒形状で、重量は3キロと新生児並みの重さの衛星である。この衛星はカメラを搭載しており、このカメラは母船の映像を映し出すためだけに用いるのではなく、カメラの捉えた画像から自分自身の位置や姿勢を認識するシステムとなっている。この画像処理を利用した(宇宙の分野では)新しい機能は、搭載するセンサーを減らすことができ、衛星の軽量化と低コスト化に役立っている。更に3つのリアクション・ホイールを搭載し、僅か3キロないし4キロの衛星であるにもかかわらず3軸姿勢制御が可能である。もし3軸制御を実証できればこの規模では世界初の試みといえるだろう。最初の実験では画像処理および軌道姿勢制御は超小型衛星(子衛星)の搭載コンピュータでは行わず、母船側の高性能なコンピュータで行うことを計画している。

アイボール機能実験
アイボール機能とはカメラ画像を利用した航法と検査機能にある。この実験ではターゲット、つまり母船を見ながら子衛星である超小型衛星が移動するLOS制御を行う。研究開発のアイテムには、3軸制御技術、画像による相対航法とLOS制御技術、インスぺクション画像の取得・圧縮・伝送、ストロボなどを利用した日陰時の画像航法とターゲットのインスぺクションが挙げられる。

以前、ADEOSという衛星が打ち上げてから1年後に突然機能を停止したという事故があった。その原因は太陽電池パドルが根元から切れてしまったことにあり、その時は地上から望遠鏡で直接観測して初めて判った。その対策として、次のCOMETSという衛星からは太陽電池をモニターするカメラ(固定式)の搭載が義務づけられることとなった。航空機にフライトレコーダーが必ず搭載されるように、このアイボール機能を持つ超小型カメラ衛星を搭載することにすれば衛星の事故調査に大いに役立つ筈である。

フォーメーションフラト実験
フォーメーションフラトの実験は母性から切り離された子衛星との間で常に通信をとりながら編隊飛行するというものである。相対位置の検出にはGPSを用いる。

イリジウムのように地球の軌道上に複数の衛星をばらまいて運用する形態をConstellationというが、フォーメーションフラトを行う意味は、その次の世代のものとして複数の衛星を組みあわせた新しい衛星運用形態を創りだすことにある。バーチャル・スペースクラフト・バスとは空間的に離れた単機能の幾つかの衛星を無線モデムで結び、全体としてあたかも多機能の大型衛星であるかのように運用する概念である。このシステムでは一部の機能を失っても別の衛星を同じ軌道上に入れることで機能を回復しうる。機能を分割した各々の衛星が通信機とスラスタを搭載しなければならず、個々のシステムが複雑となり全体として重量増になるという欠点はあるものの、冗長性と機能の拡張性というメリットの方が大きいといえる。フォーメーションフラト実験はそのために先行実証としての位置付けられる。

将来展望(マイサット)
近い将来、衛星携帯電話やパソコンを使って、自室に居ながらマイクロサットと交信できる日が来ると思う。イリジウムでは途中で回線が途切れるの無理だが、グローバルスターが実用化されればある程度までは実現可能な見通しといえる。マイクロサットにより宇宙開発の裾野を幅広く広げることができると確信している。

道新の記事(先端研)
今度は超小型衛星を中心とする技術開発と北海道経済との関連について話す。超小型衛星の今後の普及と、その要素技術である電気推進の需要を見込み、私は神奈川県の宇宙メーカーと協力して手稲区前田に(有)先端技術研究所という衛星メーカー1999年5月末に設立した。ここでは主に電気推進の研究開発について説明する。

マイクロ波エンジンの開発の背景と目的
21世紀には低軌道に小型衛星を多数打ち上げてネットワーク的な運用をするプロジェクトが急増する。また、欧米では超小型衛星が開発されつつあり、21世紀初頭には多数打ち上げられる計画が進んでいる。

このような小型衛星の需要増に、軌道維持に必要となる電気推進技術は追い付いていない。2、3年前からNASAジェット推進研究所等が中心となって次世代型の小型イオンエンジンなど電気推進の開発に着手しはじめ、昨年あたりからは衛星メーカーも参入しはじめた。一方において、不思議なことに日本の電気推進業界では誰もがこの動向に無頓着であり、日本の電気推進業界存亡の危機感が感じられる。

我々が小型衛星向けの電気推進を開発する目的として、まず第一に国産技術でアメリカの技術に対抗することである。第二に、マイクロ波放電を利用した電気推進は特に低電力側で高性能を示すというデータを宇宙研時代に得ているので、その原理を小型衛星用電気推進に応用し、新しいエンジンを開発することにある。

需要予測
現在打ち上げられている衛星単価を単純に合計すると約1兆円になるが、産業規模はその1桁以上は大きいことが見込まれる。2003年から小型衛星による需要が増加し、年間で打ち上げられる衛星総数が急増する傾向にある。ここに小型衛星に搭載可能な電気推進開発のビジネスチャンスがあるといえる。

作動時の写真
ガラスチャンバーを用いて開発を行っている。実験装置が小規模で驚かれるかもしれないが、開発のスピードアップの秘訣がここにあるといえる。

道内での産学共同体制による事業化計画
先端技術研究所は北海道工業大学の協力のもとで道内のメーカーと協力して電気推進や小型衛星を開発する。衛星開発のノウハウは宇宙メーカーである先端技術研究所が持っており、そのノウハウが牽引力となって大学の技術シーズと中小企業の技術力を宇宙開発のレベルまで引き上げることになる。これは大学とその大学が属する地域の中小企業連合による宇宙開発のスタイルの創造といえる。北海道には超小型衛星の開発に不可欠なJAMICという無重力実験設備があるという利点もある。私は新しいタイプの人工衛星であるマイクロサットとそれを開発するための産学連合組織を北海道に創りたいと思う。ぜひ北海道の新たな産業として宇宙産業を立ち上げていきましょう。

道民の力で北海道衛星を打ち上げよう!
軌道イメージ
【特徴】
人工衛星の価格破(従来の1/10)
開発期間は2年以内
(従来は5年〜10年)
道民が独占できる
日本を横断する軌道
個々の衛星が順番に北海道を通過
新しいビジネスを作るための小型衛星

【衛星を何に使うのか】
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